2010年12月1日

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- エピローグ編

「あっ!帰ってきた。お~い、バーベキュー始めるぞ~~っ!」
神宮寺さんと共に、浜辺に戻ってくると、翔くん達が大きく手を振ってわたし達を呼んだ。
「あぁそうか、そういや、今夜のディナーはバーベキューだったね」
手を繋いだままで、神宮寺さんがにっこり微笑む。
網の上にはたくさんのお肉やお魚、野菜が並べられていて、
ジュージューと美味しそうな音を立てて焼けていた。
みんなは紙のお皿と割り箸を持って、食材が焼けるのを待っている。

「神宮寺達が戻ってきたし、先に乾杯すんぞ。みんなコップ持ったか?」
日向先生が問いかけると、皆さん、ジュースの入ったコップを掲げて見せた。
「ねぇ、リューヤ。ビールが見当たらないんだけど~」
「未成年がいる場に酒なんか持ち込めるか。今日は全員ノンアルコールだ。サイダーで我慢しろ」
「ぶぅぅ。せっかくのバーベキューなのにぃ。でも、まぁいいわ。
あなたは?何が飲みたい?ジュースでいいかしら?」
「あ、はい」
月宮先生がわたしのコップにトロピカルジュースを注いでくれた。
「ありがとうございます」
わたしがお礼を言うと、先生がにっこり微笑んだ。
「よっしゃー。んじゃ乾杯すっぞ!海と景色とこれからのお前らの成長に、カンパーイ!」
『カンパーイ』
全員でコップを掲げ乾杯すると、楽しいバーベキューが始まった。

「翔ちゃん、翔ちゃん。ほらほら、お肉美味しそうだよ」
四ノ宮さんが半生のお肉をお箸でつまんで、翔くんの口元へ差し出した。
「あ、こら、やめろっ、生肉を頬に押し付けんなっ!ちゃんと焼けよ、まったくもう……。
えーと、これとか、これ、あぁ、こっちも焼けてる。ほら」
翔くんが、ちょうど良く焼けているお肉を、ひょいひょいっとつまんで、
四ノ宮さんのお皿に乗せていく。
「わーい。翔ちゃんありがと!ん~、美味しいっ!」
「そうか、良かったな……ってぇああっ。俺の分がねーー。……しょうがない。焼けるまで待つか」
「あはは。翔ってなんだかんだで面倒見がいいよね。そのせいで時々損してるみたいだけど」
四ノ宮さんと翔くんのやり取りを見ていた一十木くんが、楽しそうに微笑む。
「ほっとけ」

「3人とも、あまり肉ばかり食べるのはよくないぞ。野菜も食わねば消化に悪い」
聖川様が全員分のサラダを取り分けて、みんなに配る。
わぁ……盛り付けも綺麗……。さすがですっ!
「ほら、これはお前のだ」
「あ、ありがとうございます。……わぁ、ライチ」
「肉を食べる時は、一緒に食べておいた方がいいらしいぞ」
ひょいっとわたしのお皿から、ライチをつまんで、皮をむいてくれる。
それから、お母さんが子供の口に飴玉を入れるみたいに、わたしの口にライチを入れてくれた。
プルプルとしたゼリー状の果肉は甘くてとっても美味しかった。
「マサーっ!これってどうやって食べたらいいの?」
「ん?あぁ、それはホイル焼きだな。そのまま火に乗せればいい」
一十木くんに呼ばれ、聖川様が隣のコンロに向かった。

「ふふっ。真斗くんって、みんなのお母さんみたいですよね~」
「あいつも苦労してんだな」
四ノ宮さんの言葉に、翔くんがうんうんと頷いていた。
「やぁ、レディ……いっぱい食べてる?」
神宮寺さんがぽんっとわたしの肩に手を置いて、顔を覗き込んだ。
「あ……はい。とっても美味しいです」

「そいつは良かった。じゃあ、はい、これ、あ~ん」
美味しそうに焼けたお肉をお箸でつまんで、わたしの口元に差し出してくれた。
「えっ、あ、あの……ちょっと恥ずかしいです……」
「そう?じゃあ、キミからして、あ~んって」
「えっ、わ、わたしから……」
ドキドキして、お箸を持つ手に力がこもる。
「こらこらこら、強要すんなっ!まったくお前は……」
「そうですよ~。レンくんばっかりずるいです。ねぇ、ぼくにもあ~んして」
「ってぇ、お前もかっ!」
翔くんが勢いよくつっこむけれど、四ノ宮さんも神宮寺さんも全然気にせず、
にっこり微笑み、わたしの顔を覗き込む。
左右から、神宮寺さんと四ノ宮さんの笑顔が近づいてきて、くらくらしてしまう。

「ふたりとも何をしているんです。困っているでしょう!どきなさい。
そこにいては邪魔です。木炭が足せません……」
一ノ瀬さんが、おふたりの背後から凄みのきいた声で静かに怒る。
すると、神宮寺さんも四ノ宮さんもすっとその場から離れていった。
「まったく……。少しは自重したらどうですか?」
ぎろりと一ノ瀬さんが神宮寺さんを睨みつける。
「はぁ、うるさいのが来たんじゃ、退散するしかないか」
「なんですかその口の聞き方は、あなた方が不甲斐ないから、
私が動く羽目になっているだけです!いいから早くどきなさい。火が消えてしまいますよ」
「はいはい」
返事をして神宮寺さん達が隣のコンロに移動した。

「やれやれ」
そう言って、トングで木炭を掴む。
「あ、わたし網上げますね。よいしょっと……」
わたしは菜ばしに、網を引っ掛けて持ち上げた。
「ありがとうございます。……どうです。バーベキューは、楽しんでいますか?」
「はいっ!とっても楽しいです」
「そうですか、それは良かった。では、もう少しだけ手伝ってくださいね。
これもバーベキューを楽しむために必要なことですから」
そう言って、一ノ瀬さんがコンロに木炭を継ぎ足した。

それから、わたし達はお腹いっぱいになるまでお肉を食べ、デザートを食べ、
そして、後片付けをすると、キャンプファイヤーの準備を始めた。
「木は交互に組んで……そうそう、あと、新聞紙も忘れずに、木は火が着くまで時間かかるからさっ」
「おうっ!あっ、着火材はどうする?」
一十木くんと翔くんがイキイキとして、準備を進めていく。
「そうだね。一応使っとこうか」
「一十木、高さはどうする。あまり大きすぎても後の処理が大変だぞ」
「派手にすんのもいいが、ほどほどにしとけよ」
聖川様が積みあがった木を眺めて呟き、日向先生が釘をさす。
「はーい」
そんな風に、みんなが楽しげに準備を進める中……。

「出来ましたっ!ピヨちゃんです!!」
四ノ宮さんは木片を彫刻等で削って、可愛らしい木彫りのひよこを作っていた。
「ふふっ。可愛いなぁ……。これは素敵に出来たから、あなたにあげます」
「ありがとうございます!」
手作りのひよこさんは、温かみがあってとっても可愛らしかった。
「よーし、準備完了!火をつけるよ~~」
一十木くんが大声で宣言した。

「3、2、1、ファイヤーーーっ!!!」
着火し、火がパチパチと燃えていく……。
そして、あっという間に組み上げた木々が燃え上がり、砂浜を明るく照らした。
「うわぁ……」
すごく、明るい光……。
「ほらっ!君もおいでよっ。フォークダンスしようっ!」
一十木くんがわたしの手を取って、火に向かい走り出した。
燃え上がる炎と満天の星空。
みんなの笑顔に包まれて楽しい時間は瞬く間に過ぎていった。

そして、キャンプファイヤーも最高潮となった時、
「ハッハッハ~~っ!」
どこからともなく学園長先生の笑い声が聞こえた。
「シャイニング早乙女のビックファイヤーイリュージョン!レッツスタートー!」
キャンプファイヤーの炎がパーーンっと弾けて、中から炎を背負った学園長先生が現れた。
「炎のアイドル!シャイニング早乙女……見参なのヨ!トゥっ!」
そして、背中に炎を背負ったまま、あたりを縦横無人に飛び回る。

「うわぁ、早乙女せんせぇ、スーパーマンみたいです」
「ひゅ~。さすがボス。なかなかのイリュージョンだ」
四ノ宮さんと神宮寺さんが感心して、学園長先生を見上げていた。
「あの……おっさん。またいらんことに金かけやがって……。
つーか、燃え尽きてもしんねーぞっ。あいかわらず、どーなってるのか仕組みがわからん……」
「まぁ、いいじゃない、楽しいんだしっ。それに、シャイニーなら大丈夫よ」
呆れる日向先生に対し、月宮先生はとっても楽しそうだったのですが、
ひゅんっと、学園長先生が日向先生の近くを低空飛行すると……
「ああっ、こらおっさん。熱っ、熱いって火花飛んでる」
日向先生に、小さな火の粉が降りかかった。

「ご自身が燃えるのはかまいませんが、低空飛行はやめてください。彼女が火傷でもしたら大変です」
くいっと一ノ瀬さんが肩を引き寄せてくれた。
「まったくだ!大丈夫か。ほら、これでちょっとは違うだろ?」
翔くんが近くにあった日傘をさしかけてくれた。
「みなさん。ありがとうございます」

時々、ちょっとしたハプニングが起こったり、ドタバタと騒がしいけれど、優しくて素敵な時間……。

そんな、わたし達の楽しい夏はまだ始まったばかりです!

END

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- レン編

合流すると、すでにみんなが花火を片手に盛り上がっていました。
一十木くんは両手に片手花火を持って砂浜を走り回り、
翔くんは四ノ宮さんが火をつけたねずみ花火から必死に逃げ回っています。
聖川様はそんな皆さんを少し離れたところから見守りつつ、
ろうそくの火が消えないよう、気をつけているようでした。

「皆さん、楽しそうですね~」
「ええ……思った通り、騒がしい限りです。
さぁ、こちらへ……私達は静かに花火を楽しみましょう」
一ノ瀬さんに促され、わたしは線香花火を手に取って、
少し離れた場所に行こうとした……のですが……。

「やぁレディ。ここにいたのかい?」
「あ……神宮寺さん」
神宮寺さんがゆっくりとした足取りで、こちらに近づいてきた。
「昼間は、邪魔しちゃってごめんね」
四ノ宮さんとダイビングをした後、わたしは木陰で聖川様と一緒に涼んでいたのですが、
ビーチバレーのメンバーが足りないとのことで、神宮寺さんが聖川様を呼びに来たのです。
「あぁ、いえ、大丈夫ですよ。それよりビーチバレーはどうでした?」
「もちろん、オレの勝ちさ。……あの時、言ったよね、後でエスコートしに来るって……。
約束を果しにきたよ。キミに見せたい場所があるんだ。一緒に行こう」
「レン、彼女は今からわたしと花火をする予定なのですが?」
一ノ瀬さんが片眉をぴくりと跳ね上げて反論した。

「ふぅん、イッチーが花火ねぇ……。珍しいこともあるもんだ。
だけど……レディはいただいていくよ。オレの方が先約なんでね」
わたしと一ノ瀬さんの間に優雅に割って入ると、にこやかな笑顔で断りを入れる神宮寺さん。
「……じゃあ、またねイッチー。そんな怖い顔をしなくても、ディナーまでには戻ってくるさ」
わたしの肩を抱いたまま、軽く手を上げてすたすたと歩いていく。
その仕草があまりにも見事で、わたしは眉間に皺を寄せて立ち尽くしている一ノ瀬さんに、
会釈することくらいしか出来なかった。
「あの……大丈夫なんでしょうか……」
「ん?イッチーのことかい?それなら問題ないと思うよ。ほら……」
立ち止まり、神宮寺さんが一ノ瀬さんを指差す。
一ノ瀬さんは駆けつけてきた一十木くんに手を引っ張られ、みんなの輪の中へ連れて行かれた。
「オレ達はオレ達で楽しもう」
ウィンクをして、神宮寺さんは再び歩きだした。

そうして連れてきてもらった場所は、小高い丘の上で、そこから海と砂浜を見下ろすことが出来た。
そこに並んで腰掛け、海を眺める。
真っ黒になった水面に月の光が映って、光の道を作り出している。
そして、空には満天の星……。
聞こえてくるのは波と風に揺らされた木々のざわめきだけ。
「誰もいない海でこうしていると、ふたりの愛を確かめたくなってしまうね」
肩を引き寄せ、悪戯っぽく笑う。
「えっ、あ、愛って、確かめるって……?」
美しい微笑みがすぐ目の前にあって、それだけでも、あわあわしてしまう。
すると、神宮寺さんが困ったようにくすっと笑う。
「レディにはまだ早いのかな?でも、いいさ待っていてあげる。
キミが大人になるまで、のんびりとね……。それより……」
神宮寺さんがわたしの前髪を掻き分け、頬にそっと手を添える。

「そろそろ時間かな。さぁ、レディ。空を見て……」
言われるままに空を見上げる……。
そこにあるのは、無数の星々……そして……。
「three……two……one……GO!」
パーーーーン。
空に大きな花が咲く。
「わぁ…………」
「ボスが大きいのを仕掛けていたからね。どうせなら1番のスポットでキミと見たいと思ったのさ」
次々と空に咲く、大きな花火から目を逸らせなかった。
最初は小さな火の玉が、どこまでも高く上がり、一気にはじけて大輪の華を咲かせる。
パチパチパチ、火花がはじけて、一瞬で散り、また海に落ちていく。
「……綺麗」
わたしは上がっては咲き乱れる花火に見蕩れていた。
「うん。キミがね……」
「え……!」
頬に手がかかり、じっと見つめられる。
「神宮寺……さん」

美しい顔が次第に近づき、吐息が頬を撫でる。
そして……。
ちゅっと、神宮寺さんがわたしの額にキスをした。
「え……あ、あの……」
わたしはびっくりして目を見開いた。
「本当はここにキスしたかったんだけどね。それはキミが大人になってから……」
そっと、人差し指でわたしの唇に触れると、すっと手を取り、わたしを立たせてくれる。
「えっと、あ、あの……」
「キミはみんなのアイドルだからね。独占したら、怒られてしまうよ」
苦笑し肩をすくめると、真下の砂浜に目を向けた。

「だから、今はこれだけ……」
優しい瞳で見つめ、わたしの頬にキスをした。
「でも、いつかオレだけを見てくれると嬉しいね。さぁ、いこう」
ふっと微笑み、神宮寺さんがわたしの手をとって歩き出した。
みんなの待つ、あの場所へと……。

To be continued

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- トキヤ編

「あっ、一ノ瀬さん」
砂浜を歩いていたら、一ノ瀬さんを見かけたので、わたしは思わず声をかけた。
「あぁ、あなたも散歩ですか?夕日が綺麗ですね」
「ええ……」
わたし達は、立ち止まり、沈んでいく夕日を眺めた。
水着の上に羽織った、薄手の白いシャツが夕焼け色に染まり、
一ノ瀬さんの白い肌にもまた、夕日は影を落としていた。
ほんのりと橙色に染まった横顔が美しくて、わたしは見入ってしまった。

「おもしろい場所を見つけたんです。一緒に行きませんか?」
じっと見つめていたら、急に話しかけられ、ドキっとした。
「おもしろい場所?」
「ええ、ちょっとした探検です」
そう言って、一ノ瀬さんが楽しげに笑った。
……一ノ瀬さん、こんな顔もするんだ。
いつもクールな一ノ瀬さんが今はちょっとわくわくしているように思えた。

少しずつ日が沈み、風景が闇に覆われる姿を見ながら、わたし達は波打ち際を歩いていた。
青からオレンジ、そして、深い闇の色へと、海は時間によってその姿を変えていく。
「ここですよ」
そして、一ノ瀬さんが案内してくれたのは、ひときわ闇の色が強い、
海辺の洞窟だった。

「足元が暗いので…………いえ、あなたの場合、注意するだけでは足りませんね。さぁ、手を……」
「ありがとうございます」
差し伸べてくれた手を取って、暗い洞窟の中へと入っていく。
入口からの光も少なくなって、足元がどんどんおぼつかなくなってくる。
でも、繋いだ手が力強かったから、全然不安はなかった。
「さすがに、少し暗いですね」
そう言うと、着ていたシャツのポケットから携帯電話を取り出して、わたしの足元を照らしてくれた。
そうして、少し歩くと、奥からぼうっと光が漏れていた。
「あそこです」
そう言って案内してもらった先には、小さな地底の湖、そして……。

「素敵…………」
洞窟の壁に光苔が生えて、淡く輝いていた。
壁の光りが湖面に反射して、すごく幻想的な光景だった。
「でしょう……。外の華やかな景色とはまた違った、落ち着いた魅力がありますね」
手を繋いだまま、一ノ瀬さんがにっこり微笑む。
「一ノ瀬さん、ずっとここにいたんですか?」
そういえば、神宮寺さんが、一ノ瀬さんを探したけど見つからなかったって言っていた。
「そうですね。偶然発見して、しばらく堪能していました。
けれど、こういったものは、ひとりで見るよりも、誰かと見る方が、感動が増すようです。
あなたに会えて良かった」
湖面の光を見つめながら、一ノ瀬さんが楽しげに呟く。
「わたしも嬉しいです。連れてきていただいて、ありがとうございます……きゃっ」
ふいに、落ちてきた雫が肩に当たって驚いた。
「ん……?あぁ、ここは少々、寒いかもしれませんね」
一ノ瀬さんが着ていたシャツを脱いで、わたしの肩にかけ、そのまま肩を引き寄せてくれた。

「これなら少しは温かいでしょう?」
顔が近くて……抱き寄せてくれる手が大きくて……。
ドキドキが止まらなかった。
「……はい。でも、熱いくらいです……」
わたしは恥ずかしくなって、俯いたまま答えた。
「熱いんですか?あぁ、確かに、頬が少し赤い」
俯くわたしの顔を覗き込み、一ノ瀬さんがくすりと笑う。
「さて……。そろそろ行きましょうか。あまり暗くなっては、帰りにくくなりますから」
そうして、わたしの肩を抱き寄せたまま、出口へ向かって歩き出す。
「あ……あの……」
「ん?どうしました?何か問題でも?」
恥ずかしくなって声をかけたけれど、一ノ瀬さんは何も気にしていないようでした。
普通のこと……なのかな?
「いえ……何も」
「そうですか。それはよかった」
にっこり微笑み、再び歩き出す。

そうして、砂浜へ出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。
「あっ!いたいたふたりともっ。これからみんなで花火やるんだっ!早くおいでよっ!」
遠くから一十木くんの声が聞こえた。
「はーーい。今行きまーーす」
わたしが答えると、一十木くんがひときわ大きく手を振った。

「……花火ですか。騒がしいのはあまり好まないのですが……」
一ノ瀬さんがふぅっとため息をついた。
「花火、お嫌いですか?」
「そうですね。さほど好きではありません。ただ、線香花火だけは、情緒があっていいと思いますよ」
「わたしも線香花火好きです」
「では、騒がしい連中から離れて、ふたりで静かに線香花火を愛でるとしましょう」
優しい笑みを浮かべ、一ノ瀬さんがわたしの手を取り歩き出した。

To be continued

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- 真斗編

四ノ宮さんとダイビングをし、泳ぎ疲れたわたしは、ビーチの木陰に腰掛け、
ちょっと休憩していた。
わたしの隣には、先にここへ来ていた聖川様が座っていて、静かに海を眺めている。

「いい景色ですねぇ。波が穏やかで、水が綺麗。砂浜も白くて……。まるで絵葉書みたいな風景です」
情景が心に染み込み、胸の奥に旋律が響いた。
「ああ。ここは無人島だからな。普段は誰にも汚されない……。
自然のままの姿だ。この景色は人に見せるためのものではない。
そこに、ただある。ありのままの地球の姿だ。だからこそ、俺達の胸を打つ」

「ええ、本当に素敵です。あっ、こんなところにお花が……綺麗……」
南国の極彩色の花が葉っぱの緑に映えて、とても美しかった。
「花……か。そういえば昔、妹によく作ってやったな……」
目の前に咲いている花を摘み、器用に花の冠を作っていく。
いつもピアノを弾いている、細く長い指が優雅に動いて、茎を編む。
そうして、瞬く間に花の冠が出来上がった。
「うん。これならいいだろう」
そして……。
ぽんっとわたしの頭に乗せた。

「あぁ、よく似合っているな。その花に彩られたお前ごと、ずっと愛でていたい」
そう言って優しく微笑む。
その笑顔が眩しくて、ドキドキしてしまった。
「あ……えっとあの、花飾り、ありがとう……ございます。
あの、お礼にわたしも何か……。えーとえーと」
あたりを見回してみるけれど、お礼になりそうなものは見つからない。

「そんなに、慌てなくてもいい。そうだな、では、曲を作ってくれないか?
この大自然に身を置いた感動。そんなお前の気持ちを音楽で聞いてみたい。
……今でなくとも、戻ってからでもいい。俺にだけに聞かせて欲しいのだ」
「はいっ!ぜひ!戻ったらすぐに作りますね」
「そうか、では、楽しみにしているぞ。お前の曲は俺の心に染みる。
この風景を目に焼きつけ、心に刻むことは出来ても、切り取って持って帰ることは出来ないからな。
お前の曲で、この風景を心に呼び戻して欲しい」
優しい瞳で見つめ、冠の花びらに手を伸ばし、微笑んだ。

「……たくさん泳いで疲れただろう。これを飲むといい」
そう言って、ストローの刺さった椰子の実をわたしにくれた。
「ありがとうございます」
椰子の実のジュースはサッパリとしていて、ほんのり甘い味がした。

「一十木と泳ぎ、来栖とスイカ割りをして、先程までは四ノ宮とダイビングか……。
なかなか、盛りだくさんの1日だな。はしゃぐお前の姿は見ていて楽しかったぞ」
「えっ!?全部見ていたんですか?」
ちょっと恥ずかしいです。
「見ていたというか……ここからはあたりの様子が見渡せるからな。
俺は騒がしく動くよりも、こうして心静かに風景を眺める方が好きなんだ。
波の音に耳を傾け、風を感じて遠くを見つめる。
穏やかな時間を体験すると、心が安らぎ、とても落ち着く……」
「あ……じゃあ、もしかして、おひとりの方がよかったですか?お邪魔ならわたしこれで……」
立ち去ろうと背を向けたら、ぱしっと手首を掴まれ、引き止められる。

「いや……いい。むしろ、お前が隣に座っていてくれる方が落ち着く。
お前は大自然に似ている。素直でまっさらで……。お前が傍にいるだけで、空気が和らぐのだ」
振り向くと、穏やかな瞳がわたしを優しく見つめていた。
「だから、もう少しだけ、ここにいてくれないか?」
「……はい」
それから、わたし達は静かに、遠くの景色を見つめていた。

と、そこへ……。
「なんだ、ここにいたのか聖川。姿が見えないから、沖まで流されたのかと思ったぜ」
ビーチから神宮寺さんがやってきて、聖川様を見てふふんっと鼻を鳴らした。
「そんなわけなかろう。邪魔だ。神宮寺、早々に立ち去れ」
「そうはいかないな。メンバーが足りないんだ。お前には、ビーチバレーに参加してもらうぜ」
そう言って、神宮寺さんが聖川様の肩をぽんっと叩く。
「そんなもの。4人いればいいのだろう。他の者に当たれ」
聖川様にそっけなくあしらわれると、神宮寺さんがやれやれと肩をすくめる。
「残念ながら、イッキはリューヤさんと海に釣りに行っているし、
イッチーはどこを探しても見当たらなくてね。もう、お前しかいないのさ。
セッティングは出来ている。後はメンバーだけなんだが……。まぁ、俺が勝つに決まっているし、
お前が、俺に完膚なきまでに叩きのめされるのが怖い、というのなら仕方がない。
あきらめてイッチーを探すさ」
その言葉に、聖川様の眉がぴくりと跳ね上がる。

「待て。誰が誰に負けるだと?そこまで言われて引き下がれるか。いいだろう。その勝負受けてやる」
「ふっ。そう来なくっちゃ!じゃあね。レディ。悪いけど、こいつを借りていくよ。
あぁでも、後でちゃんとキミをエスコートしに来るから、待っていてね」
投げキッスひとつ残して、神宮寺さんは去って行き、
「悪いな。そんなわけだから、俺はもう行く。だが、お前はもう少しここで休んでいくといい」
聖川様もまた、ビーチバレーをしに、砂浜へと向かっていったのです。
ビーチに向かうお2人は何やら言い合い、そして最後には競争するみたいに、走って行きました。

それから、しばらくはそこに座って海をぼーっと見つめていた。
徐々に太陽が水平線へ近づき、世界をオレンジ色に染め上げる。
それがあまりにも綺麗で、ここから見るだけじゃもったいなくて、砂浜に向かった。

夕日を眺めながら砂浜を歩いていると、向こうから一ノ瀬さんがやってきた。

To be continued

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- 那月編

向こうから四ノ宮さんが走ってきて、きょろきょろとあちこち見回した。
「あ、あれ?翔ちゃんがいない……。おかしいなぁ。
てっきりここにいたと思ったんだけど……。お2人とも、翔ちゃん知りませんか?」

翔くんは、さっき四ノ宮さんの姿を見て、慌てて海に潜ってしまったのです。
「あ~、まぁ、確かにさっきまでここにいたんだけど……。海に泳ぎにいったみたいだよ」
一十木くんが苦笑しながらそう答えていた。
翔くんと四ノ宮さんはとても仲良しなのですが、四ノ宮さんのテンションが高い時、
翔くんはいつも大変なことに巻き込まれるらしく、いつも必死に逃げているようです。

「そうですか、それは残念です。
ダイビングの準備が出来たので、みんなで一緒にお魚さんをみようと思ったのですが、
一足遅かったみたいですね。 翔ちゃんにも、可愛いお魚さん見せてあげたかったなぁ。
どうですか?一緒に海に潜りませんか?ちゃんとお2人の分もありますよ。ほら」
そう言って、四ノ宮さんがシュノーケルやゴーグルを掲げてみせた。
「わぁ、楽しそうですね。でも、わたしあんまり泳ぎは得意じゃなくて……」
「大丈夫です。手を繋いで一緒に泳ぎましょう」
にこっと微笑み、四ノ宮さんがわたしの手を握った。

「ダイビングかぁ、すげー楽しそうだけど、
ごめん、俺この後、先生達と釣りに行く約束してるんだよね。
沖まで船で出て、今日の晩ごはん釣ってくるんだ!」
「それは楽しみです。いっぱい釣ってきてくださいね~!」
四ノ宮さんがキラキラと目を輝かせる。
「おうっ!んじゃ、そんなわけなんで、ふたりで楽しんできてよ」
「はいっ!釣り頑張ってください!!」
わたしがそう言うと、一十木くんがにこっと微笑んだ。
「うんっ。ものすごい大物釣ってくるから、期待しててくれよなっ!」
そうして、一十木くんはロッジへと走っていった。

「ふふっ。それじゃあ、いきましょうか」
ゴーグルとシュノーケルを顔につけ、フィンを足につけると、
四ノ宮さんに連れられて、沖へと泳ぎ出した。
「このあたりがいいかなぁ……。本当はスキューバダイビングがしたかったんですけど、
プロの指導もなしに、いきなりは出来ないので……。
でも、いつかあなたとふたりで海のもっと深いところへ潜っていきたいな」
「スキューバダイビングかぁ、楽しそうですね」
「ええ、きっと楽しいですよ。さぁ、そろそろ潜りましょう」
すぅ~っと息を吸いこみ、海の中へ潜る。
透明度の高い海の中は陽の光りを受けて、キラキラと輝き、たくさんの熱帯魚が優雅に泳いでいた。

水中では上手く移動できないわたしの肩を抱き、やさしく誘導する。
そして、四ノ宮さんがちょいちょいっと指さして、わたしにいろいろなものを見せてくれた。
つんっと魚をつつくと、慌てて方向転換した魚の尾びれが、四ノ宮さんの頬にヒットして、
四ノ宮さんが目を丸くする。
息が続かなくなると、海面へ顔を出し、微笑み合う。
そして、また海へと潜っていく。そんなことを繰り返した。

「ふふっ。かわいいお魚さんが、た~くさんいましたね」
「はいっ。とっても綺麗でした」
小さな魚が群れを成し、海中で煌く。
自由に泳ぎまわるカラフルな魚達。
まるで、水族館の中を泳いでいるようだった。
水に濡れたふわふわの髪の毛が太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
「あぁ、でも、さっきはびっくりしました。まさかナポレオンフィッシュにビンタされるなんて……」
そう言って、四ノ宮さんが自分の頬に手を当てた。
「つんつんしたから怒っちゃったのかな~?」
四ノ宮さんがう~んと考え込んだ。
「たまたまだと思いますよ」
わたしが微笑みかけると、つんっとわたしの頬を指で軽くつついた。

「えくぼ……。とっても可愛いです」
にっこり笑った四ノ宮さんがあまりにも眩しくて、わたしは顔を真っ赤にして照れてしまった。
「ふふっ。ナポレオンフィッシュをつついたら、ビンタされちゃったけど、あなたに触れたら、
真っ赤になってしまいましたね。あぁ、でも、そんな風に照れるあなたも可愛いっ!」
ぎゅ~っと抱きしめられた。

「あ、あのっ」
照れて真っ赤になるわたしに頬ずりし、それから、四ノ宮さんはふっと腕を緩め、
わたしの頭をいい子いい子と撫でた。
どうやら四ノ宮さんは自分よりも小さいものが好きみたいで、小動物や、
それから翔くんも、とても可愛がっているのです。
わたしも可愛がってもらっているのかな。

それから、わたし達は再び手を繋ぎ、海面を漂った。
「このまま人魚になって、あなたと海に潜れたら、きっとすごく楽しいと思うけど……。
僕達の足に尾びれはないから、あんまり長く海の中にいたら、疲れちゃいますね。
だから……。なごり惜しいけど、そろそろ帰りましょうか、みんなの待っているあの砂浜へ」
「はいっ」
腰に手を回し、四ノ宮さんが泳げないわたしを抱きかかえながら、砂浜を目指し泳ぎ出した。

砂浜につくと、翔くんが顔に帽子を乗せて、浜辺でお昼ねしていました。
「あっ!翔ちゃん発見っ!海がすごくきれいでしたよ!さぁ、張り切ってダイビングに行きましょう!」
四ノ宮さんは翔くんを見つけるなり、翔くんの足を掴んで、肩に担ぎ上げた。
「えっ、ちょっ、待っ!うわっ」
そして、翔くんの返事も待たずに、そのまま海へ……。
「わーい、楽しいなぁ~」
「やめろ、馬鹿っ!おーろーせーーーーー」
翔くんの悲鳴が見る間に遠ざかっていきます。

四ノ宮さん、さっきダイビングから戻ってきたばかりなのに、元気だなぁ。
わたしはさすがに少し疲れてしまったので、どこか涼しげな場所を探そうと、周囲を散策しました。

そして……。
「あ……あのあたり緑が多い」
木陰で休もうとその緑地に近づくと、そこには先客がいらっしゃいました。
「ん?なんだ。お前も来たのか?ここはいい風が吹いているぞ、さぁ、隣へ座れ」
聖川様に促され、わたしは隣に腰掛けた。

「はい、ありがとうございます」
そうして、わたしは、少しの間、やしの木の木陰で涼むことにしたのです。

To be continued

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- 翔編

一十木くんと沖から泳いで戻ってくると、浜辺には大きなスイカがでんっと置かれていた。

「海といえばやっぱコレだろコレっ!!」
木の棒を片手に翔くんが胸を張る。
「うんうんっ! 楽しいよねスイカ割りっ!! でも、スイカなんてどっから持ってきたの?」
一十木くんがとても楽しげにスイカを見つめた。

「さっきロッジで見つけてさ。夕飯のデザート用だったらしいんだけど、いっぱいあったし、
先生に聞いたら、使っていいって言われたから、一番でかいのを持ってきたんだ!
どうせ割るならデカイ方が楽しいからなっ!」
そう言って、翔くんがぽんぽんっとスイカを叩く。
確かにそのスイカは翔くんの頭よりもずっと大きかった。
持って来るの大変だっただろうなぁ。
翔くんは、見かけはちっちゃくて可愛らしいけど、実は意外と力持ちさんなんです。

「さてと……んじゃ、お前からやってみろよ」
「へ……? わ、わたし?」
スイカ割り……噂には聞いていたけど……。挑戦するのは初めてです。
「ん? もしかしてやったことない?」
「……はい。何となく知ってはいるんですが、やったことは1度も……」
「そっか、んじゃ、特別に俺様がやり方を教えてやる! いいか、まず目隠しをする」
すっと手が伸びてきて、ハチマキで目を覆われた。
「なっ、何も見えませんっ!」
視界を奪われると、急に不安になってくる。
「バーカ、当たり前だろ。目隠ししてんだからさ……。ホントおもしろいやつ」
「この後、くるくるくる~って回すんだよね」
真横から楽しげな一十木くんの声が聞こえる。
「おうっ! んじゃ回すぞっ」
「わっっ!まっ、待って……」
緊張してわたしが身体を強張らせると、翔くんが優しくぽんっと肩に両手を添えてくれる。

「怖くなんかねーよ。ほらっ、肩の力を抜け……なっ!」
「はい。ふぅーーー。……こ、心の準備できました。お願いします!」
ほっとしたところで、肩をつかまれ、くるくる~っと回される。
「きゃっ、目…目が回る……」
翔くんはわたしが転ばないように気をつけながら、ゆっくり回してくれているみたいだった。
でも、やっぱり目は回ります。
「よし、こんなもんだろ。後はこれ持って、俺の指示に合わせて、思いっきり棒を振り下ろせっ!」
「はっ、はいっ!!」
何も見えない中、翔くんと一十木くんの言葉だけを頼りに動く。
「もうちょい右っ」
一十木くんの言葉を聞いて、右に向かうけど……。
「ああ、惜しい左だ、左っ!」
どうやら行き過ぎたみたいです。
今度は、翔くんの言葉を頼りに、ちょっと左へ……。
「そうそう、まっすぐ! いい感じだよっ!」
「よし行けっ! 今だ思いっきり振り下ろせっ!」
「……えいっ!」
ぽすっ。
頑張ってはみたのですが、残念ながら空振りしてしまいました。

「残念だったな。でも、惜しかったぜ。うんっ、初めてにしちゃ上出来だ!」
そう言いながら、翔くんがハチマキを外してくれる。
「んじゃ、次は、俺やるね!!」
翔くんからハチマキを受け取り、一十木くんは自分の目にきゅっとハチマキを巻いた。
「準備OK! 思いっきり回して!」
「おうっ! そ~れそれそれそれ~~」
翔くんが楽しそうに、一十木くんをくるくる回し、
一十木くんも翔くんが回す勢いをかりて、自分からもくるくる回っていた。
「あははっ、目ぇ、ぐるぐるいってる。よ~し、突撃~~っ。とりゃぁぁぁ」
ふらつきながらも、一気に駆け出し、一十木くんが棒を振り下ろした、次の瞬間……。

ひゅんっ!!
棒が一十木くんの手からすっぽ抜けた。

「危ないっ!」
ぶつかるっ!!
そう思い目を閉じたけど……。

ぱしっ!
わたしの目の前に飛んできた棒を、翔くんが片手でキャッチする。
「ふぅ……。大丈夫だったか?」
「う…うん。大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」
棒が飛んできたのも驚いたけど、それ以上に、翔くんの素早さに驚いた。

棒が飛んできた瞬間、翔くんはわたしの肩を抱いて引き寄せ、前に立ちふさがって、左手で棒をキャッチした。
とっさのときの凛々しい横顔と、ほっとしてわたしに優しく問いかける表情が全然違っていて、
あぁ、男の子っていろんな顔を持っているんだなぁって思った。
「あの……。助けてくれてありがとう」
わたしがお礼を言うと、肩を抱いていた手をパッと離して、ほっぺたを真っ赤にしながら、横を向く。

「別に……こんなのたいしたことじゃねーし……。お前が無事なら、俺は、それで……」
「ああっ! ごめんふたりともっ。大丈夫? 怪我してない?」
ハチマキを外し、一十木くんが駆け寄ってきた。
「大丈夫じゃねーよ、ったく。あやうくぶつかりそうだったんだぜ。気をつけろよな」
「ごめん……」
翔くんに怒られて、一十木くんがしゅ~んと肩を落とした。

「さてと、最後は俺様だなっ! みてろよっ! ぜってぇー割ってやらぁ!!」
そうして、翔くんは意気揚々とスイカに向かい……。
「もう少し右ですっ!」
「ん? ここか?」
「はい!」
「よっしゃっ! おりゃ~~っ!!!」
パカっと、スイカが綺麗に真っ二つに割れた。

「わぁ、すごいですっ!!」
「どんなもんよ!」
ハチマキを取り、翔くんがわたし達に向けて、Vサインをする。
それからすぐ、綺麗に割れたスイカを、翔くんがナイフを使って、適当な大きさに切っていく。
「ほら、食えよ。ここが一番美味いんだぜ!」
にこっと笑い、翔くんがスイカをくれました。

そうしてみんなでスイカを食べていると。
遠くから、ドドドドドドドドドと猛烈な勢いで、砂煙を上げながら何かが近づいてきました。
「翔ちゃぁぁぁ~~~~~~~んっ!」
「げっ! 那月っ!?」
どうやら砂煙の正体は四ノ宮さんのようです。
「悪いっ! 俺もう行くわっ! じゃ、また後でっ!!」
四ノ宮さんの姿を見た途端、翔くんが慌てて立ち上がり、海へ飛び込んだ。

To be continued

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- 音也編

「ふふっ。若いっていいわねぇ~。じゃあ、アタシはもう行くわ。
早く行かないと龍也に怒られちゃうものね」
ぱちんっとウインクひとつ残して、月宮先生もまたロッジへ向かった。

「先生方は夜の準備をされるみたいですよ~。お夕飯楽しみですね」
「へぇ、そうなんだ。期待しちゃうなっ!じゃあ、行こうかっ!
せっかく海に来たんだから泳がなきゃ。ねっ!」
そう言って、バー型のフロートを掲げて見せた。
「うんっ」
笑顔で頷くと、一十木くんがにこっと笑ってくれた。
一十木くんがわたしの手を取り、海に向かって走り出す。
「音也、海に入るなら、準備運動くらい……」
すれ違い様、一ノ瀬さんが声をかけるけど、一十木くんの耳には入っていないようでした。

じりじりと焼ける砂の感触を足の裏に感じながら、砂浜を駆け抜ける。
「わぁ……。綺麗な水……」
波打ち際に辿り着き、濡れた砂に足をつけると、
寄せてきた波の動きに合わせて、すーっと足が砂に沈み込んでいく。
「きゃっ、冷たい……」
海の水は冷たくて、とっても気持ちよかった。
「そ~れっ!!」
一十木くんが手で水をすくってわたしにかける。
「わわっ!!何…?」
腕に水がかかり、その冷たさに驚いて、ちょっとだけ飛びのいた。
「準備運動っ!どうせなら、楽しくやった方がいいじゃんっ。それっ!」
「きゃっ……。もう~~。お返しですっ!」
わたしも負けじと、一十木くんに水をかけた。
「あはは、やったなぁ~」
波打ち際を駆け回り、水をかけあう。
それから、大きな波が来て、ふたりとも頭から波をかぶってしまった。
「あはっ」
「あははっ」
水浸しになり、顔を見合わせて笑いあう。

「んじゃ、行こうか」
一十木くんがわたしの手を取り、沖へ向かって歩き出す。
「あぁ、そうだ。コレ使おう!」
そう言って、バー型のフロートをわたしに被せてくれる。
ふたつある穴の片方にわたし、もう片方に一十木くんが入り、
海に入ると、波が来るたびに、ふわりと身体が浮かび上がる。
ゆっくりと足を進め、波の動きに合わせて、沖へ向かい泳ぎ出した。
あぁ、砂浜がもうあんなに遠い……。
どこまでも澄んだ、青い海。
「綺麗…………」
フロートに身体を預けながら、たゆたい、どこまでも続く海を見ていた。
水面がきらきらと輝いて、空の青を映す。
空と海の境目があいまいで、空へ繋がっているようだった。

「海ってこんなにキレイだったんだな……」
水平線を眺めながら、一十木くんが呟く。
「こんなにもキレイなものを君と見られた」
耳元でドキっとする声が響き、ハッとして横を向くと、一十木くんがわたしを見つめていた。
「感動を誰かと分かち合えた。それが嬉しいんだ。しかも、それが君だからなおさら」
にこっと微笑み、また海を見つめる。その横顔は少しだけ赤くなっていた。
「うん……。わたしも嬉しい……」
それだけ言って、わたしもまた海を見た。
ふいに、一十木くんが手を伸ばして、わたしの手と合わせ、指と指を絡ませる。
「え……?あっ、あの……」
「大丈夫。ここにはふたりしかいないよ。あっ、もしかして嫌だった?」
わたしはふるふると首を横に振った。
「そっか、良かった。こうしてるとなんかすげー落ち着くんだよね。
繋がってるって感じがする。だから、もう少しだけ、こうしていても……いい?」
「うん」
わたしが頷くと、一十木くんはにこっと微笑み、さっきよりも強く、手を握った。
夏の日差しを受けて、一十木くんの髪がキラキラと輝いていた。
少し日焼けした顔、情熱を秘めた瞳。
そして、繋いだ手から伝わるぬくもりが、わたしの胸を高鳴らせていた。
淡いエメラルドグリーンの波に揺られ、ふたりの身体が上下する。
そうして、わたし達は、繋いだ手と手のぬくもりだけを感じながら、水平線を眺めていた。
まるで時が止まったみたいに、ゆったりとした時間がとても心地よかった。

「お~~~い、そこのふたり~~!スイカ割りしようぜっ!」
ふいに浜辺から声が聞こえ、目を向けると、翔くんがスイカを片手に手を振っていた。
その声に驚き、わたし達はパッと手を離した。
そして、互いに照れ笑いを浮かべ、砂浜へ向き直る。

「お~~っ!今行く~~っ」
一十木くんもまた、大きく手を振って答え、
「じゃっ!行こうか?」
にこっと微笑みかけ、一十木くんがわたしの肩に手を回して、力強く泳ぎ始めた。

To be continued

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- プロローグ

夏ですっ! 海ですっ! 南の島ですっ!!!

今、わたしの目の前には真っ青な海と、どこまでも続く白い砂浜が広がっています。
本来なら今日は、学園で学園長先生による特別講座を受ける予定だったのですが……。

学園内の空調設備が少々不具合を起こし、
エアコンが使えなくなってしまい、学園長先生が
「こんな時こそ、慌てず騒がずサマーバケーションデース!」とおっしゃって、
その場でヘリを呼び、みんなを連れて南の島へとやってきたのです。

あぁ、太陽が、そしてみなさんの水着姿が眩しすぎます!

「ん? どうした? ぼーっとして、こういうトコは初めてか?」
海辺で立ち尽くしていたら、Sクラスの日向先生が話しかけてくれた。
「あ、はい。なんだか眩しすぎてくらくらします」
「そうか。まぁ、ここは社長のプライベートビーチ……
つーか、島丸ごとあのおっさんのもんだからな。贅沢っちゃ贅沢だよなぁ。
けど、その分、ここには俺達しかいねーし、なんの気がねもいらねー。
せっかくの休日だ。思う存分楽しめばいいさ」

「そぉよ~。ここは、シャイニーの気が向いた時しか
連れてきてもらえないんですもの。楽しまなくちゃもったいないわっ。
あ、ねぇ、サンオイルの塗りっこしましょっ。背中は手が届かなくってぇ。
夏だし、たまにはイメチェンで小麦色の肌……ってのもいいわよね~」

サマーベッドに身を横たえながら、
サンオイルを腕に塗っていた月宮先生がわたしに、にこっと微笑みかける。

「お前なぁ、自分の性別をちったぁ考えろっ!」
「ええ~。別にいいじゃない、それくらい。
そんなに言うなら龍也が塗ってよ。ほら、サンオイル」

月宮先生がサマーベッドから立ち上がり、
ぽんっとサンオイルを日向先生に手渡すけれど、
「断る! 社長にでも塗ってもらえ」
日向先生はそれをぱしっと跳ね除ける。
「もうっ、なによっ、龍也のケチケチ星人っ!」
そう言って、月宮先生がべーっと舌を出す。

「あの、わたしでよければ、お背中に塗りますよ」
わたしは砂に落ちたサンオイルを拾って、月宮先生に微笑みかけた。
「あ~ん。ありがとっ! だ~い好きっ!」
月宮先生がわたしにぎゅっと抱きついた。
あ……。
月宮先生、見た目は女の子そのものだけど、結構がっちりしてるんだ。
ちゃんと男の人なんだなぁ。

「……はぁ、ったく暑苦しい奴。お前もあんまり甘やかさなくて良いぞ。
こいつは甘やかすと付け上がるからな」
「そんなことないもんっ。ね~~」
わたしをぎゅっと抱きしめたまま、月宮先生が顔を覗き込んでにこっと笑う。
「はいっ!」
あぁ、でもやっぱり女の子みたいに可愛いですっ!

「やれやれ……。けどまぁ、お前も林檎の相手は程ほどにして、
あいつらと一緒に遊んで来い。あぁ、それと……。
泳がないならこれ被っとけ。今日の陽射しは殺人的だからな」
ぽすっと、日向先生が麦藁帽子を被せてくれた。

「んじゃ、俺は夜の準備があるからもう行くぞ。
林檎、お前もオイル塗ったらすぐ来い。じゃねーと夕飯抜きだかんな」
そう言って、わたし達に背を向けると、
日向先生はロッジに向かって歩いて行った。

「むぅ、わかってるわよーーだ」
去っていく日向先生に、いーーっと可愛らしく悪態をついてから、
月宮先生がわたしに向き直る。
「さぁてと、じゃあ、塗りっこしましょうか。
サンオイルだけじゃなくて、日焼け止めもあるからね!
女の子なんですもの。お肌のケアはしっかりしなくっちゃ」
そうして、わたし達は互いにサンオイルと日焼け止めを塗りあった。

「は~い。これでもう大丈夫っ!
すみずみまで丁寧に塗ったから、変に日焼けすることはありませんからねっ」
日焼け止めを塗り終わり、月宮先生が満足気にわたしを見つめる。
「ありがとうございます!」
背中や腕、自分の手じゃ届かないところを、月宮先生に塗ってもらった。
これなら、後でひりひりすることもなさそうです。
「さてと、アタシはもう行くけど、あなたは泳ぎにでも……
あ、ほら、王子様が迎えに来てくれたみたいよ」
そう言って、月宮先生が海辺を指差す。

「お~い、一緒に泳ごうよっ!」
一十木くんが大きく手を振り、こちらへ向かい走ってきた。

To be continued