2010年12月1日

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- レン編

合流すると、すでにみんなが花火を片手に盛り上がっていました。
一十木くんは両手に片手花火を持って砂浜を走り回り、
翔くんは四ノ宮さんが火をつけたねずみ花火から必死に逃げ回っています。
聖川様はそんな皆さんを少し離れたところから見守りつつ、
ろうそくの火が消えないよう、気をつけているようでした。

「皆さん、楽しそうですね~」
「ええ……思った通り、騒がしい限りです。
さぁ、こちらへ……私達は静かに花火を楽しみましょう」
一ノ瀬さんに促され、わたしは線香花火を手に取って、
少し離れた場所に行こうとした……のですが……。

「やぁレディ。ここにいたのかい?」
「あ……神宮寺さん」
神宮寺さんがゆっくりとした足取りで、こちらに近づいてきた。
「昼間は、邪魔しちゃってごめんね」
四ノ宮さんとダイビングをした後、わたしは木陰で聖川様と一緒に涼んでいたのですが、
ビーチバレーのメンバーが足りないとのことで、神宮寺さんが聖川様を呼びに来たのです。
「あぁ、いえ、大丈夫ですよ。それよりビーチバレーはどうでした?」
「もちろん、オレの勝ちさ。……あの時、言ったよね、後でエスコートしに来るって……。
約束を果しにきたよ。キミに見せたい場所があるんだ。一緒に行こう」
「レン、彼女は今からわたしと花火をする予定なのですが?」
一ノ瀬さんが片眉をぴくりと跳ね上げて反論した。

「ふぅん、イッチーが花火ねぇ……。珍しいこともあるもんだ。
だけど……レディはいただいていくよ。オレの方が先約なんでね」
わたしと一ノ瀬さんの間に優雅に割って入ると、にこやかな笑顔で断りを入れる神宮寺さん。
「……じゃあ、またねイッチー。そんな怖い顔をしなくても、ディナーまでには戻ってくるさ」
わたしの肩を抱いたまま、軽く手を上げてすたすたと歩いていく。
その仕草があまりにも見事で、わたしは眉間に皺を寄せて立ち尽くしている一ノ瀬さんに、
会釈することくらいしか出来なかった。
「あの……大丈夫なんでしょうか……」
「ん?イッチーのことかい?それなら問題ないと思うよ。ほら……」
立ち止まり、神宮寺さんが一ノ瀬さんを指差す。
一ノ瀬さんは駆けつけてきた一十木くんに手を引っ張られ、みんなの輪の中へ連れて行かれた。
「オレ達はオレ達で楽しもう」
ウィンクをして、神宮寺さんは再び歩きだした。

そうして連れてきてもらった場所は、小高い丘の上で、そこから海と砂浜を見下ろすことが出来た。
そこに並んで腰掛け、海を眺める。
真っ黒になった水面に月の光が映って、光の道を作り出している。
そして、空には満天の星……。
聞こえてくるのは波と風に揺らされた木々のざわめきだけ。
「誰もいない海でこうしていると、ふたりの愛を確かめたくなってしまうね」
肩を引き寄せ、悪戯っぽく笑う。
「えっ、あ、愛って、確かめるって……?」
美しい微笑みがすぐ目の前にあって、それだけでも、あわあわしてしまう。
すると、神宮寺さんが困ったようにくすっと笑う。
「レディにはまだ早いのかな?でも、いいさ待っていてあげる。
キミが大人になるまで、のんびりとね……。それより……」
神宮寺さんがわたしの前髪を掻き分け、頬にそっと手を添える。

「そろそろ時間かな。さぁ、レディ。空を見て……」
言われるままに空を見上げる……。
そこにあるのは、無数の星々……そして……。
「three……two……one……GO!」
パーーーーン。
空に大きな花が咲く。
「わぁ…………」
「ボスが大きいのを仕掛けていたからね。どうせなら1番のスポットでキミと見たいと思ったのさ」
次々と空に咲く、大きな花火から目を逸らせなかった。
最初は小さな火の玉が、どこまでも高く上がり、一気にはじけて大輪の華を咲かせる。
パチパチパチ、火花がはじけて、一瞬で散り、また海に落ちていく。
「……綺麗」
わたしは上がっては咲き乱れる花火に見蕩れていた。
「うん。キミがね……」
「え……!」
頬に手がかかり、じっと見つめられる。
「神宮寺……さん」

美しい顔が次第に近づき、吐息が頬を撫でる。
そして……。
ちゅっと、神宮寺さんがわたしの額にキスをした。
「え……あ、あの……」
わたしはびっくりして目を見開いた。
「本当はここにキスしたかったんだけどね。それはキミが大人になってから……」
そっと、人差し指でわたしの唇に触れると、すっと手を取り、わたしを立たせてくれる。
「えっと、あ、あの……」
「キミはみんなのアイドルだからね。独占したら、怒られてしまうよ」
苦笑し肩をすくめると、真下の砂浜に目を向けた。

「だから、今はこれだけ……」
優しい瞳で見つめ、わたしの頬にキスをした。
「でも、いつかオレだけを見てくれると嬉しいね。さぁ、いこう」
ふっと微笑み、神宮寺さんがわたしの手をとって歩き出した。
みんなの待つ、あの場所へと……。

To be continued