2010年12月1日

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- エピローグ編

「あっ!帰ってきた。お~い、バーベキュー始めるぞ~~っ!」
神宮寺さんと共に、浜辺に戻ってくると、翔くん達が大きく手を振ってわたし達を呼んだ。
「あぁそうか、そういや、今夜のディナーはバーベキューだったね」
手を繋いだままで、神宮寺さんがにっこり微笑む。
網の上にはたくさんのお肉やお魚、野菜が並べられていて、
ジュージューと美味しそうな音を立てて焼けていた。
みんなは紙のお皿と割り箸を持って、食材が焼けるのを待っている。

「神宮寺達が戻ってきたし、先に乾杯すんぞ。みんなコップ持ったか?」
日向先生が問いかけると、皆さん、ジュースの入ったコップを掲げて見せた。
「ねぇ、リューヤ。ビールが見当たらないんだけど~」
「未成年がいる場に酒なんか持ち込めるか。今日は全員ノンアルコールだ。サイダーで我慢しろ」
「ぶぅぅ。せっかくのバーベキューなのにぃ。でも、まぁいいわ。
あなたは?何が飲みたい?ジュースでいいかしら?」
「あ、はい」
月宮先生がわたしのコップにトロピカルジュースを注いでくれた。
「ありがとうございます」
わたしがお礼を言うと、先生がにっこり微笑んだ。
「よっしゃー。んじゃ乾杯すっぞ!海と景色とこれからのお前らの成長に、カンパーイ!」
『カンパーイ』
全員でコップを掲げ乾杯すると、楽しいバーベキューが始まった。

「翔ちゃん、翔ちゃん。ほらほら、お肉美味しそうだよ」
四ノ宮さんが半生のお肉をお箸でつまんで、翔くんの口元へ差し出した。
「あ、こら、やめろっ、生肉を頬に押し付けんなっ!ちゃんと焼けよ、まったくもう……。
えーと、これとか、これ、あぁ、こっちも焼けてる。ほら」
翔くんが、ちょうど良く焼けているお肉を、ひょいひょいっとつまんで、
四ノ宮さんのお皿に乗せていく。
「わーい。翔ちゃんありがと!ん~、美味しいっ!」
「そうか、良かったな……ってぇああっ。俺の分がねーー。……しょうがない。焼けるまで待つか」
「あはは。翔ってなんだかんだで面倒見がいいよね。そのせいで時々損してるみたいだけど」
四ノ宮さんと翔くんのやり取りを見ていた一十木くんが、楽しそうに微笑む。
「ほっとけ」

「3人とも、あまり肉ばかり食べるのはよくないぞ。野菜も食わねば消化に悪い」
聖川様が全員分のサラダを取り分けて、みんなに配る。
わぁ……盛り付けも綺麗……。さすがですっ!
「ほら、これはお前のだ」
「あ、ありがとうございます。……わぁ、ライチ」
「肉を食べる時は、一緒に食べておいた方がいいらしいぞ」
ひょいっとわたしのお皿から、ライチをつまんで、皮をむいてくれる。
それから、お母さんが子供の口に飴玉を入れるみたいに、わたしの口にライチを入れてくれた。
プルプルとしたゼリー状の果肉は甘くてとっても美味しかった。
「マサーっ!これってどうやって食べたらいいの?」
「ん?あぁ、それはホイル焼きだな。そのまま火に乗せればいい」
一十木くんに呼ばれ、聖川様が隣のコンロに向かった。

「ふふっ。真斗くんって、みんなのお母さんみたいですよね~」
「あいつも苦労してんだな」
四ノ宮さんの言葉に、翔くんがうんうんと頷いていた。
「やぁ、レディ……いっぱい食べてる?」
神宮寺さんがぽんっとわたしの肩に手を置いて、顔を覗き込んだ。
「あ……はい。とっても美味しいです」

「そいつは良かった。じゃあ、はい、これ、あ~ん」
美味しそうに焼けたお肉をお箸でつまんで、わたしの口元に差し出してくれた。
「えっ、あ、あの……ちょっと恥ずかしいです……」
「そう?じゃあ、キミからして、あ~んって」
「えっ、わ、わたしから……」
ドキドキして、お箸を持つ手に力がこもる。
「こらこらこら、強要すんなっ!まったくお前は……」
「そうですよ~。レンくんばっかりずるいです。ねぇ、ぼくにもあ~んして」
「ってぇ、お前もかっ!」
翔くんが勢いよくつっこむけれど、四ノ宮さんも神宮寺さんも全然気にせず、
にっこり微笑み、わたしの顔を覗き込む。
左右から、神宮寺さんと四ノ宮さんの笑顔が近づいてきて、くらくらしてしまう。

「ふたりとも何をしているんです。困っているでしょう!どきなさい。
そこにいては邪魔です。木炭が足せません……」
一ノ瀬さんが、おふたりの背後から凄みのきいた声で静かに怒る。
すると、神宮寺さんも四ノ宮さんもすっとその場から離れていった。
「まったく……。少しは自重したらどうですか?」
ぎろりと一ノ瀬さんが神宮寺さんを睨みつける。
「はぁ、うるさいのが来たんじゃ、退散するしかないか」
「なんですかその口の聞き方は、あなた方が不甲斐ないから、
私が動く羽目になっているだけです!いいから早くどきなさい。火が消えてしまいますよ」
「はいはい」
返事をして神宮寺さん達が隣のコンロに移動した。

「やれやれ」
そう言って、トングで木炭を掴む。
「あ、わたし網上げますね。よいしょっと……」
わたしは菜ばしに、網を引っ掛けて持ち上げた。
「ありがとうございます。……どうです。バーベキューは、楽しんでいますか?」
「はいっ!とっても楽しいです」
「そうですか、それは良かった。では、もう少しだけ手伝ってくださいね。
これもバーベキューを楽しむために必要なことですから」
そう言って、一ノ瀬さんがコンロに木炭を継ぎ足した。

それから、わたし達はお腹いっぱいになるまでお肉を食べ、デザートを食べ、
そして、後片付けをすると、キャンプファイヤーの準備を始めた。
「木は交互に組んで……そうそう、あと、新聞紙も忘れずに、木は火が着くまで時間かかるからさっ」
「おうっ!あっ、着火材はどうする?」
一十木くんと翔くんがイキイキとして、準備を進めていく。
「そうだね。一応使っとこうか」
「一十木、高さはどうする。あまり大きすぎても後の処理が大変だぞ」
「派手にすんのもいいが、ほどほどにしとけよ」
聖川様が積みあがった木を眺めて呟き、日向先生が釘をさす。
「はーい」
そんな風に、みんなが楽しげに準備を進める中……。

「出来ましたっ!ピヨちゃんです!!」
四ノ宮さんは木片を彫刻等で削って、可愛らしい木彫りのひよこを作っていた。
「ふふっ。可愛いなぁ……。これは素敵に出来たから、あなたにあげます」
「ありがとうございます!」
手作りのひよこさんは、温かみがあってとっても可愛らしかった。
「よーし、準備完了!火をつけるよ~~」
一十木くんが大声で宣言した。

「3、2、1、ファイヤーーーっ!!!」
着火し、火がパチパチと燃えていく……。
そして、あっという間に組み上げた木々が燃え上がり、砂浜を明るく照らした。
「うわぁ……」
すごく、明るい光……。
「ほらっ!君もおいでよっ。フォークダンスしようっ!」
一十木くんがわたしの手を取って、火に向かい走り出した。
燃え上がる炎と満天の星空。
みんなの笑顔に包まれて楽しい時間は瞬く間に過ぎていった。

そして、キャンプファイヤーも最高潮となった時、
「ハッハッハ~~っ!」
どこからともなく学園長先生の笑い声が聞こえた。
「シャイニング早乙女のビックファイヤーイリュージョン!レッツスタートー!」
キャンプファイヤーの炎がパーーンっと弾けて、中から炎を背負った学園長先生が現れた。
「炎のアイドル!シャイニング早乙女……見参なのヨ!トゥっ!」
そして、背中に炎を背負ったまま、あたりを縦横無人に飛び回る。

「うわぁ、早乙女せんせぇ、スーパーマンみたいです」
「ひゅ~。さすがボス。なかなかのイリュージョンだ」
四ノ宮さんと神宮寺さんが感心して、学園長先生を見上げていた。
「あの……おっさん。またいらんことに金かけやがって……。
つーか、燃え尽きてもしんねーぞっ。あいかわらず、どーなってるのか仕組みがわからん……」
「まぁ、いいじゃない、楽しいんだしっ。それに、シャイニーなら大丈夫よ」
呆れる日向先生に対し、月宮先生はとっても楽しそうだったのですが、
ひゅんっと、学園長先生が日向先生の近くを低空飛行すると……
「ああっ、こらおっさん。熱っ、熱いって火花飛んでる」
日向先生に、小さな火の粉が降りかかった。

「ご自身が燃えるのはかまいませんが、低空飛行はやめてください。彼女が火傷でもしたら大変です」
くいっと一ノ瀬さんが肩を引き寄せてくれた。
「まったくだ!大丈夫か。ほら、これでちょっとは違うだろ?」
翔くんが近くにあった日傘をさしかけてくれた。
「みなさん。ありがとうございます」

時々、ちょっとしたハプニングが起こったり、ドタバタと騒がしいけれど、優しくて素敵な時間……。

そんな、わたし達の楽しい夏はまだ始まったばかりです!

END