2010年12月1日

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- 翔編

一十木くんと沖から泳いで戻ってくると、浜辺には大きなスイカがでんっと置かれていた。

「海といえばやっぱコレだろコレっ!!」
木の棒を片手に翔くんが胸を張る。
「うんうんっ! 楽しいよねスイカ割りっ!! でも、スイカなんてどっから持ってきたの?」
一十木くんがとても楽しげにスイカを見つめた。

「さっきロッジで見つけてさ。夕飯のデザート用だったらしいんだけど、いっぱいあったし、
先生に聞いたら、使っていいって言われたから、一番でかいのを持ってきたんだ!
どうせ割るならデカイ方が楽しいからなっ!」
そう言って、翔くんがぽんぽんっとスイカを叩く。
確かにそのスイカは翔くんの頭よりもずっと大きかった。
持って来るの大変だっただろうなぁ。
翔くんは、見かけはちっちゃくて可愛らしいけど、実は意外と力持ちさんなんです。

「さてと……んじゃ、お前からやってみろよ」
「へ……? わ、わたし?」
スイカ割り……噂には聞いていたけど……。挑戦するのは初めてです。
「ん? もしかしてやったことない?」
「……はい。何となく知ってはいるんですが、やったことは1度も……」
「そっか、んじゃ、特別に俺様がやり方を教えてやる! いいか、まず目隠しをする」
すっと手が伸びてきて、ハチマキで目を覆われた。
「なっ、何も見えませんっ!」
視界を奪われると、急に不安になってくる。
「バーカ、当たり前だろ。目隠ししてんだからさ……。ホントおもしろいやつ」
「この後、くるくるくる~って回すんだよね」
真横から楽しげな一十木くんの声が聞こえる。
「おうっ! んじゃ回すぞっ」
「わっっ!まっ、待って……」
緊張してわたしが身体を強張らせると、翔くんが優しくぽんっと肩に両手を添えてくれる。

「怖くなんかねーよ。ほらっ、肩の力を抜け……なっ!」
「はい。ふぅーーー。……こ、心の準備できました。お願いします!」
ほっとしたところで、肩をつかまれ、くるくる~っと回される。
「きゃっ、目…目が回る……」
翔くんはわたしが転ばないように気をつけながら、ゆっくり回してくれているみたいだった。
でも、やっぱり目は回ります。
「よし、こんなもんだろ。後はこれ持って、俺の指示に合わせて、思いっきり棒を振り下ろせっ!」
「はっ、はいっ!!」
何も見えない中、翔くんと一十木くんの言葉だけを頼りに動く。
「もうちょい右っ」
一十木くんの言葉を聞いて、右に向かうけど……。
「ああ、惜しい左だ、左っ!」
どうやら行き過ぎたみたいです。
今度は、翔くんの言葉を頼りに、ちょっと左へ……。
「そうそう、まっすぐ! いい感じだよっ!」
「よし行けっ! 今だ思いっきり振り下ろせっ!」
「……えいっ!」
ぽすっ。
頑張ってはみたのですが、残念ながら空振りしてしまいました。

「残念だったな。でも、惜しかったぜ。うんっ、初めてにしちゃ上出来だ!」
そう言いながら、翔くんがハチマキを外してくれる。
「んじゃ、次は、俺やるね!!」
翔くんからハチマキを受け取り、一十木くんは自分の目にきゅっとハチマキを巻いた。
「準備OK! 思いっきり回して!」
「おうっ! そ~れそれそれそれ~~」
翔くんが楽しそうに、一十木くんをくるくる回し、
一十木くんも翔くんが回す勢いをかりて、自分からもくるくる回っていた。
「あははっ、目ぇ、ぐるぐるいってる。よ~し、突撃~~っ。とりゃぁぁぁ」
ふらつきながらも、一気に駆け出し、一十木くんが棒を振り下ろした、次の瞬間……。

ひゅんっ!!
棒が一十木くんの手からすっぽ抜けた。

「危ないっ!」
ぶつかるっ!!
そう思い目を閉じたけど……。

ぱしっ!
わたしの目の前に飛んできた棒を、翔くんが片手でキャッチする。
「ふぅ……。大丈夫だったか?」
「う…うん。大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」
棒が飛んできたのも驚いたけど、それ以上に、翔くんの素早さに驚いた。

棒が飛んできた瞬間、翔くんはわたしの肩を抱いて引き寄せ、前に立ちふさがって、左手で棒をキャッチした。
とっさのときの凛々しい横顔と、ほっとしてわたしに優しく問いかける表情が全然違っていて、
あぁ、男の子っていろんな顔を持っているんだなぁって思った。
「あの……。助けてくれてありがとう」
わたしがお礼を言うと、肩を抱いていた手をパッと離して、ほっぺたを真っ赤にしながら、横を向く。

「別に……こんなのたいしたことじゃねーし……。お前が無事なら、俺は、それで……」
「ああっ! ごめんふたりともっ。大丈夫? 怪我してない?」
ハチマキを外し、一十木くんが駆け寄ってきた。
「大丈夫じゃねーよ、ったく。あやうくぶつかりそうだったんだぜ。気をつけろよな」
「ごめん……」
翔くんに怒られて、一十木くんがしゅ~んと肩を落とした。

「さてと、最後は俺様だなっ! みてろよっ! ぜってぇー割ってやらぁ!!」
そうして、翔くんは意気揚々とスイカに向かい……。
「もう少し右ですっ!」
「ん? ここか?」
「はい!」
「よっしゃっ! おりゃ~~っ!!!」
パカっと、スイカが綺麗に真っ二つに割れた。

「わぁ、すごいですっ!!」
「どんなもんよ!」
ハチマキを取り、翔くんがわたし達に向けて、Vサインをする。
それからすぐ、綺麗に割れたスイカを、翔くんがナイフを使って、適当な大きさに切っていく。
「ほら、食えよ。ここが一番美味いんだぜ!」
にこっと笑い、翔くんがスイカをくれました。

そうしてみんなでスイカを食べていると。
遠くから、ドドドドドドドドドと猛烈な勢いで、砂煙を上げながら何かが近づいてきました。
「翔ちゃぁぁぁ~~~~~~~んっ!」
「げっ! 那月っ!?」
どうやら砂煙の正体は四ノ宮さんのようです。
「悪いっ! 俺もう行くわっ! じゃ、また後でっ!!」
四ノ宮さんの姿を見た途端、翔くんが慌てて立ち上がり、海へ飛び込んだ。

To be continued