ちょっと休憩していた。
わたしの隣には、先にここへ来ていた聖川様が座っていて、静かに海を眺めている。
「いい景色ですねぇ。波が穏やかで、水が綺麗。砂浜も白くて……。まるで絵葉書みたいな風景です」
情景が心に染み込み、胸の奥に旋律が響いた。
「ああ。ここは無人島だからな。普段は誰にも汚されない……。
自然のままの姿だ。この景色は人に見せるためのものではない。
そこに、ただある。ありのままの地球の姿だ。だからこそ、俺達の胸を打つ」
「ええ、本当に素敵です。あっ、こんなところにお花が……綺麗……」
南国の極彩色の花が葉っぱの緑に映えて、とても美しかった。
「花……か。そういえば昔、妹によく作ってやったな……」
目の前に咲いている花を摘み、器用に花の冠を作っていく。
いつもピアノを弾いている、細く長い指が優雅に動いて、茎を編む。
そうして、瞬く間に花の冠が出来上がった。
「うん。これならいいだろう」
そして……。
ぽんっとわたしの頭に乗せた。
「あぁ、よく似合っているな。その花に彩られたお前ごと、ずっと愛でていたい」
そう言って優しく微笑む。
その笑顔が眩しくて、ドキドキしてしまった。
「あ……えっとあの、花飾り、ありがとう……ございます。
あの、お礼にわたしも何か……。えーとえーと」
あたりを見回してみるけれど、お礼になりそうなものは見つからない。
「そんなに、慌てなくてもいい。そうだな、では、曲を作ってくれないか?
この大自然に身を置いた感動。そんなお前の気持ちを音楽で聞いてみたい。
……今でなくとも、戻ってからでもいい。俺にだけに聞かせて欲しいのだ」
「はいっ!ぜひ!戻ったらすぐに作りますね」
「そうか、では、楽しみにしているぞ。お前の曲は俺の心に染みる。
この風景を目に焼きつけ、心に刻むことは出来ても、切り取って持って帰ることは出来ないからな。
お前の曲で、この風景を心に呼び戻して欲しい」
優しい瞳で見つめ、冠の花びらに手を伸ばし、微笑んだ。
「……たくさん泳いで疲れただろう。これを飲むといい」
そう言って、ストローの刺さった椰子の実をわたしにくれた。
「ありがとうございます」
椰子の実のジュースはサッパリとしていて、ほんのり甘い味がした。
「一十木と泳ぎ、来栖とスイカ割りをして、先程までは四ノ宮とダイビングか……。
なかなか、盛りだくさんの1日だな。はしゃぐお前の姿は見ていて楽しかったぞ」
「えっ!?全部見ていたんですか?」
ちょっと恥ずかしいです。
「見ていたというか……ここからはあたりの様子が見渡せるからな。
俺は騒がしく動くよりも、こうして心静かに風景を眺める方が好きなんだ。
波の音に耳を傾け、風を感じて遠くを見つめる。
穏やかな時間を体験すると、心が安らぎ、とても落ち着く……」
「あ……じゃあ、もしかして、おひとりの方がよかったですか?お邪魔ならわたしこれで……」
立ち去ろうと背を向けたら、ぱしっと手首を掴まれ、引き止められる。
「いや……いい。むしろ、お前が隣に座っていてくれる方が落ち着く。
お前は大自然に似ている。素直でまっさらで……。お前が傍にいるだけで、空気が和らぐのだ」
振り向くと、穏やかな瞳がわたしを優しく見つめていた。
「だから、もう少しだけ、ここにいてくれないか?」
「……はい」
それから、わたし達は静かに、遠くの景色を見つめていた。
と、そこへ……。
「なんだ、ここにいたのか聖川。姿が見えないから、沖まで流されたのかと思ったぜ」
ビーチから神宮寺さんがやってきて、聖川様を見てふふんっと鼻を鳴らした。
「そんなわけなかろう。邪魔だ。神宮寺、早々に立ち去れ」
「そうはいかないな。メンバーが足りないんだ。お前には、ビーチバレーに参加してもらうぜ」
そう言って、神宮寺さんが聖川様の肩をぽんっと叩く。
「そんなもの。4人いればいいのだろう。他の者に当たれ」
聖川様にそっけなくあしらわれると、神宮寺さんがやれやれと肩をすくめる。
「残念ながら、イッキはリューヤさんと海に釣りに行っているし、
イッチーはどこを探しても見当たらなくてね。もう、お前しかいないのさ。
セッティングは出来ている。後はメンバーだけなんだが……。まぁ、俺が勝つに決まっているし、
お前が、俺に完膚なきまでに叩きのめされるのが怖い、というのなら仕方がない。
あきらめてイッチーを探すさ」
その言葉に、聖川様の眉がぴくりと跳ね上がる。
「待て。誰が誰に負けるだと?そこまで言われて引き下がれるか。いいだろう。その勝負受けてやる」
「ふっ。そう来なくっちゃ!じゃあね。レディ。悪いけど、こいつを借りていくよ。
あぁでも、後でちゃんとキミをエスコートしに来るから、待っていてね」
投げキッスひとつ残して、神宮寺さんは去って行き、
「悪いな。そんなわけだから、俺はもう行く。だが、お前はもう少しここで休んでいくといい」
聖川様もまた、ビーチバレーをしに、砂浜へと向かっていったのです。
ビーチに向かうお2人は何やら言い合い、そして最後には競争するみたいに、走って行きました。
それから、しばらくはそこに座って海をぼーっと見つめていた。
徐々に太陽が水平線へ近づき、世界をオレンジ色に染め上げる。
それがあまりにも綺麗で、ここから見るだけじゃもったいなくて、砂浜に向かった。
夕日を眺めながら砂浜を歩いていると、向こうから一ノ瀬さんがやってきた。
To be continued