2010年12月1日

スペシャルショートストーリー『Prince of summer vacation』- 真斗編

四ノ宮さんとダイビングをし、泳ぎ疲れたわたしは、ビーチの木陰に腰掛け、
ちょっと休憩していた。
わたしの隣には、先にここへ来ていた聖川様が座っていて、静かに海を眺めている。

「いい景色ですねぇ。波が穏やかで、水が綺麗。砂浜も白くて……。まるで絵葉書みたいな風景です」
情景が心に染み込み、胸の奥に旋律が響いた。
「ああ。ここは無人島だからな。普段は誰にも汚されない……。
自然のままの姿だ。この景色は人に見せるためのものではない。
そこに、ただある。ありのままの地球の姿だ。だからこそ、俺達の胸を打つ」

「ええ、本当に素敵です。あっ、こんなところにお花が……綺麗……」
南国の極彩色の花が葉っぱの緑に映えて、とても美しかった。
「花……か。そういえば昔、妹によく作ってやったな……」
目の前に咲いている花を摘み、器用に花の冠を作っていく。
いつもピアノを弾いている、細く長い指が優雅に動いて、茎を編む。
そうして、瞬く間に花の冠が出来上がった。
「うん。これならいいだろう」
そして……。
ぽんっとわたしの頭に乗せた。

「あぁ、よく似合っているな。その花に彩られたお前ごと、ずっと愛でていたい」
そう言って優しく微笑む。
その笑顔が眩しくて、ドキドキしてしまった。
「あ……えっとあの、花飾り、ありがとう……ございます。
あの、お礼にわたしも何か……。えーとえーと」
あたりを見回してみるけれど、お礼になりそうなものは見つからない。

「そんなに、慌てなくてもいい。そうだな、では、曲を作ってくれないか?
この大自然に身を置いた感動。そんなお前の気持ちを音楽で聞いてみたい。
……今でなくとも、戻ってからでもいい。俺にだけに聞かせて欲しいのだ」
「はいっ!ぜひ!戻ったらすぐに作りますね」
「そうか、では、楽しみにしているぞ。お前の曲は俺の心に染みる。
この風景を目に焼きつけ、心に刻むことは出来ても、切り取って持って帰ることは出来ないからな。
お前の曲で、この風景を心に呼び戻して欲しい」
優しい瞳で見つめ、冠の花びらに手を伸ばし、微笑んだ。

「……たくさん泳いで疲れただろう。これを飲むといい」
そう言って、ストローの刺さった椰子の実をわたしにくれた。
「ありがとうございます」
椰子の実のジュースはサッパリとしていて、ほんのり甘い味がした。

「一十木と泳ぎ、来栖とスイカ割りをして、先程までは四ノ宮とダイビングか……。
なかなか、盛りだくさんの1日だな。はしゃぐお前の姿は見ていて楽しかったぞ」
「えっ!?全部見ていたんですか?」
ちょっと恥ずかしいです。
「見ていたというか……ここからはあたりの様子が見渡せるからな。
俺は騒がしく動くよりも、こうして心静かに風景を眺める方が好きなんだ。
波の音に耳を傾け、風を感じて遠くを見つめる。
穏やかな時間を体験すると、心が安らぎ、とても落ち着く……」
「あ……じゃあ、もしかして、おひとりの方がよかったですか?お邪魔ならわたしこれで……」
立ち去ろうと背を向けたら、ぱしっと手首を掴まれ、引き止められる。

「いや……いい。むしろ、お前が隣に座っていてくれる方が落ち着く。
お前は大自然に似ている。素直でまっさらで……。お前が傍にいるだけで、空気が和らぐのだ」
振り向くと、穏やかな瞳がわたしを優しく見つめていた。
「だから、もう少しだけ、ここにいてくれないか?」
「……はい」
それから、わたし達は静かに、遠くの景色を見つめていた。

と、そこへ……。
「なんだ、ここにいたのか聖川。姿が見えないから、沖まで流されたのかと思ったぜ」
ビーチから神宮寺さんがやってきて、聖川様を見てふふんっと鼻を鳴らした。
「そんなわけなかろう。邪魔だ。神宮寺、早々に立ち去れ」
「そうはいかないな。メンバーが足りないんだ。お前には、ビーチバレーに参加してもらうぜ」
そう言って、神宮寺さんが聖川様の肩をぽんっと叩く。
「そんなもの。4人いればいいのだろう。他の者に当たれ」
聖川様にそっけなくあしらわれると、神宮寺さんがやれやれと肩をすくめる。
「残念ながら、イッキはリューヤさんと海に釣りに行っているし、
イッチーはどこを探しても見当たらなくてね。もう、お前しかいないのさ。
セッティングは出来ている。後はメンバーだけなんだが……。まぁ、俺が勝つに決まっているし、
お前が、俺に完膚なきまでに叩きのめされるのが怖い、というのなら仕方がない。
あきらめてイッチーを探すさ」
その言葉に、聖川様の眉がぴくりと跳ね上がる。

「待て。誰が誰に負けるだと?そこまで言われて引き下がれるか。いいだろう。その勝負受けてやる」
「ふっ。そう来なくっちゃ!じゃあね。レディ。悪いけど、こいつを借りていくよ。
あぁでも、後でちゃんとキミをエスコートしに来るから、待っていてね」
投げキッスひとつ残して、神宮寺さんは去って行き、
「悪いな。そんなわけだから、俺はもう行く。だが、お前はもう少しここで休んでいくといい」
聖川様もまた、ビーチバレーをしに、砂浜へと向かっていったのです。
ビーチに向かうお2人は何やら言い合い、そして最後には競争するみたいに、走って行きました。

それから、しばらくはそこに座って海をぼーっと見つめていた。
徐々に太陽が水平線へ近づき、世界をオレンジ色に染め上げる。
それがあまりにも綺麗で、ここから見るだけじゃもったいなくて、砂浜に向かった。

夕日を眺めながら砂浜を歩いていると、向こうから一ノ瀬さんがやってきた。

To be continued