「あ、あれ?翔ちゃんがいない……。おかしいなぁ。
てっきりここにいたと思ったんだけど……。お2人とも、翔ちゃん知りませんか?」
翔くんは、さっき四ノ宮さんの姿を見て、慌てて海に潜ってしまったのです。
「あ~、まぁ、確かにさっきまでここにいたんだけど……。海に泳ぎにいったみたいだよ」
一十木くんが苦笑しながらそう答えていた。
翔くんと四ノ宮さんはとても仲良しなのですが、四ノ宮さんのテンションが高い時、
翔くんはいつも大変なことに巻き込まれるらしく、いつも必死に逃げているようです。
「そうですか、それは残念です。
ダイビングの準備が出来たので、みんなで一緒にお魚さんをみようと思ったのですが、
一足遅かったみたいですね。 翔ちゃんにも、可愛いお魚さん見せてあげたかったなぁ。
どうですか?一緒に海に潜りませんか?ちゃんとお2人の分もありますよ。ほら」
そう言って、四ノ宮さんがシュノーケルやゴーグルを掲げてみせた。
「わぁ、楽しそうですね。でも、わたしあんまり泳ぎは得意じゃなくて……」
「大丈夫です。手を繋いで一緒に泳ぎましょう」
にこっと微笑み、四ノ宮さんがわたしの手を握った。
「ダイビングかぁ、すげー楽しそうだけど、
ごめん、俺この後、先生達と釣りに行く約束してるんだよね。
沖まで船で出て、今日の晩ごはん釣ってくるんだ!」
「それは楽しみです。いっぱい釣ってきてくださいね~!」
四ノ宮さんがキラキラと目を輝かせる。
「おうっ!んじゃ、そんなわけなんで、ふたりで楽しんできてよ」
「はいっ!釣り頑張ってください!!」
わたしがそう言うと、一十木くんがにこっと微笑んだ。
「うんっ。ものすごい大物釣ってくるから、期待しててくれよなっ!」
そうして、一十木くんはロッジへと走っていった。
「ふふっ。それじゃあ、いきましょうか」
ゴーグルとシュノーケルを顔につけ、フィンを足につけると、
四ノ宮さんに連れられて、沖へと泳ぎ出した。
「このあたりがいいかなぁ……。本当はスキューバダイビングがしたかったんですけど、
プロの指導もなしに、いきなりは出来ないので……。
でも、いつかあなたとふたりで海のもっと深いところへ潜っていきたいな」
「スキューバダイビングかぁ、楽しそうですね」
「ええ、きっと楽しいですよ。さぁ、そろそろ潜りましょう」
すぅ~っと息を吸いこみ、海の中へ潜る。
透明度の高い海の中は陽の光りを受けて、キラキラと輝き、たくさんの熱帯魚が優雅に泳いでいた。
水中では上手く移動できないわたしの肩を抱き、やさしく誘導する。
そして、四ノ宮さんがちょいちょいっと指さして、わたしにいろいろなものを見せてくれた。
つんっと魚をつつくと、慌てて方向転換した魚の尾びれが、四ノ宮さんの頬にヒットして、
四ノ宮さんが目を丸くする。
息が続かなくなると、海面へ顔を出し、微笑み合う。
そして、また海へと潜っていく。そんなことを繰り返した。
「ふふっ。かわいいお魚さんが、た~くさんいましたね」
「はいっ。とっても綺麗でした」
小さな魚が群れを成し、海中で煌く。
自由に泳ぎまわるカラフルな魚達。
まるで、水族館の中を泳いでいるようだった。
水に濡れたふわふわの髪の毛が太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
「あぁ、でも、さっきはびっくりしました。まさかナポレオンフィッシュにビンタされるなんて……」
そう言って、四ノ宮さんが自分の頬に手を当てた。
「つんつんしたから怒っちゃったのかな~?」
四ノ宮さんがう~んと考え込んだ。
「たまたまだと思いますよ」
わたしが微笑みかけると、つんっとわたしの頬を指で軽くつついた。
「えくぼ……。とっても可愛いです」
にっこり笑った四ノ宮さんがあまりにも眩しくて、わたしは顔を真っ赤にして照れてしまった。
「ふふっ。ナポレオンフィッシュをつついたら、ビンタされちゃったけど、あなたに触れたら、
真っ赤になってしまいましたね。あぁ、でも、そんな風に照れるあなたも可愛いっ!」
ぎゅ~っと抱きしめられた。
「あ、あのっ」
照れて真っ赤になるわたしに頬ずりし、それから、四ノ宮さんはふっと腕を緩め、
わたしの頭をいい子いい子と撫でた。
どうやら四ノ宮さんは自分よりも小さいものが好きみたいで、小動物や、
それから翔くんも、とても可愛がっているのです。
わたしも可愛がってもらっているのかな。
それから、わたし達は再び手を繋ぎ、海面を漂った。
「このまま人魚になって、あなたと海に潜れたら、きっとすごく楽しいと思うけど……。
僕達の足に尾びれはないから、あんまり長く海の中にいたら、疲れちゃいますね。
だから……。なごり惜しいけど、そろそろ帰りましょうか、みんなの待っているあの砂浜へ」
「はいっ」
腰に手を回し、四ノ宮さんが泳げないわたしを抱きかかえながら、砂浜を目指し泳ぎ出した。
砂浜につくと、翔くんが顔に帽子を乗せて、浜辺でお昼ねしていました。
「あっ!翔ちゃん発見っ!海がすごくきれいでしたよ!さぁ、張り切ってダイビングに行きましょう!」
四ノ宮さんは翔くんを見つけるなり、翔くんの足を掴んで、肩に担ぎ上げた。
「えっ、ちょっ、待っ!うわっ」
そして、翔くんの返事も待たずに、そのまま海へ……。
「わーい、楽しいなぁ~」
「やめろ、馬鹿っ!おーろーせーーーーー」
翔くんの悲鳴が見る間に遠ざかっていきます。
四ノ宮さん、さっきダイビングから戻ってきたばかりなのに、元気だなぁ。
わたしはさすがに少し疲れてしまったので、どこか涼しげな場所を探そうと、周囲を散策しました。
そして……。
「あ……あのあたり緑が多い」
木陰で休もうとその緑地に近づくと、そこには先客がいらっしゃいました。
「ん?なんだ。お前も来たのか?ここはいい風が吹いているぞ、さぁ、隣へ座れ」
聖川様に促され、わたしは隣に腰掛けた。
「はい、ありがとうございます」
そうして、わたしは、少しの間、やしの木の木陰で涼むことにしたのです。
To be continued