2011年12月24日

chara_aozora

「クリスマスは嫌いでした……」

白い吐息とともに吐き出された言葉に
あなたはとても悲しそうな顔をした。
窓の外ではさっき降り始めた雪が
ゆっくりと舞い落ちては積もっていく。
少しずつ、確実に。
雪が音を吸収してしまうせいで
耳が痛いくらい静かだ。
キャンドルライトの揺らめきとともに
あなたの横顔もゆらゆら揺らめく。
おいしいケーキにクリスマスプレゼントがあって、
寒さに肩を震わせればあたため合える距離に
愛おしい恋人がいて、
クリスマスに必要な何もかもが揃っている。
昔の僕が望んでも手に入れられなかったものを
今の僕は手にしている。
『颯斗君』
あなたが小さな声で僕の名前を呼ぶ。
その名前は僕の心をあたたかくする。
僕があなたの名前を口にする。
その名前は僕の心を優しくさせる。
「そんなに悲しそうな顔をしないでください。
 嫌い“でした”……もう過去のことです。
 今は……今は……」
昔の僕に教えてあげたいくらい幸せに満ち溢れている。
だから時々その幸せを否定したくなってしまう。
そうでもしないと昔の僕が救われない気がして……。
言葉に詰まった僕にあなたは『今は好きなんだよね』と
優しく笑いながら指先を僕の頬にそっと添えた。
あなたの指先は少し冷たくて、
その温度はいつかのクリスマスを思い出させる……。
「手、かじかんでます。こんなに冷たくなるまで
 気付いてあげられなくてすみません」
頬に当てられたあなたの指先を少しでもあたためてあげたくて
僕の手を添える。
触れればぬくもりを感じる距離で見つめ合う。
こんな静かな夜に言葉はいらない。
僕達にはそれが分かっている。
「あなたが……」
“好きです”と言い終わる前にあなたを抱きしめる。
ほのかな灯りの中で僕らは抱き合い、
見つめ合えば、自然と瞳を閉じる。
吐息のカーテンが2人を少しだけ隠す。
その間に短いキス。
哀しいくらい臆病で、弱い僕。
それでも、感じる喜びや痛みが少しでもあなたと一緒なら
今よりは強くなれるのかもしれない。
この涙が零れ落ちてしまいそうなくらい
優しいぬくもりをあなたと感じ合えるなら
もう、寂しくはないのかもしれない。
「クリスマスなんて所詮一夜の幻です。
 その幻に身を任せて現実を忘れるなんて、
 僕には出来そうにもありません。
 ……そんな風に昔の僕は言いましたね」
あなたは、こくんと少し不安そうな顔で頷いてから
『やっぱり今もそう思うの?』と聞く。
「その考えは今も変わっていません。
 でも……あなたがいてくれるのなら
 一夜の幻に現実を忘れてもいいかなと思います」
その言葉の意味に気付く前に、強引にあなたの唇を奪う。
最初は触れるだけ。
それだけでは飽き足りなくて……そのキスは次第に深くなる。
僕のキスにあなたは優しさを添えて返してくれる。
ひどく弱くて、それでいて、力強く、
最高に優しいキスに僕の理性が敵うはずがなかった。